上層部は関係修復に期待
中日関係が「新たな冷戦」、という大きな方向に陥ることのないのはすでに明らかだ。同時に、釣魚島での漁船衝突をめぐる紛争、その後に続いた事件が両国の政治上の相互信頼を傷つけたのは確かであり、この生じたひびが、中日双方の上層部による「補填-亀裂-再補填」の繰り返しの一部であることに目を向ける必要がある。
10月4日、温家宝総理と菅直人首相は第8回アジア・欧州首脳会議(ASEM)会場の廊下で25分ほど懇談。双方は「両国の民間交流と政府間の意思疎通を強化し、ふさわしい時期にトップ会談を実現する」などの意向を伝えた。
10月11日、梁光烈国防部長と北沢俊美防衛相はベトナムでの東南アジア諸国連合(アセアン)拡大国防大臣会議に出席した際、再び「期せずして遭遇」。場所は会場のエレベーター脇だった。北沢防衛相は20分ほどの懇談に満足の意を表し、「十分な準備はしていなかったが、会談できたのは一歩前進だ」と語った。
政府系メディアの新華社はこの2度にわたる上層部の接触を、公式な「会談」または「会見」としてではなく、「懇談」と報じた。
双方の最高指導部の接触はやはり「非公式」なものだが、事前かつ緻密に準備された「廊下外交」と「エレベーター外交」だったのは明白。そこに、両国関係の緊迫した状態を取り除き、あるべき道に戻りたいという中日政府の強い願いが感じられる。中国外交部のおきまりの説明に照らせば、日本側と中国側が「相向きてともに行く」。こうした特殊なケースでの懇談は、中日の政治家らが、両国関係が緊迫していることで公式会談が開けない場合に備えての一種の非常手段なのだ。
だが、中日関係に緊張緩和の兆しが出てきた時に、在日本中国大使館が右翼のデモで危険にさらされた。また、成都や西安などで大規模な反日デモが起きたことは、民間人の傷が癒されていないことを示している。
中国政府はまた「修復に向けた行動」に。10月19日、楊潔篪外交部長は訪中した「菅首相特使」の江田五月氏と面会。消息筋によれば、双方は両国関係の修復に向け互いに尽力することを再度確認した。
中国側は、改善しつつある関係をつなぎとめることに注意を払ってきた。外交部の馬朝旭報道官は、江田氏と楊氏の対面を「古い友人の私的な集まり」であり、公式な会談または会見ではないと位置づけ、実際的な行動をもって両国の指導者が会見するために必要な条件と環境を整えるよう、日本側に呼びかけた。