文=コラムニスト・陳言
秦皇島市から60キロ、盧龍県付近で高速を下りて少しもたたないうちに、あたりの風景が変化し始めた。市街地を過ぎれば3階建て以上の建物は見当たらず、平屋の前にはトウモロコシのきびがらがうず高く積まれている。とうもろこしとサツマイモ以外の作物はこのあたりの畑には無縁のようだ。立ち遅れた農村の姿をここに垣間見ることができる。
当時三菱商事中国総代表を務めていた武田勝年さんとここにきた5年前、道路は今ほど整備されておらず、商店も少なかった。
「日本企業が中国でどのような社会貢献をすべきか、会社によってやり方は様々でしょう。私たちは学校などに対し長期にわたって支援できる方法を模索してきました」
武田さんはそのとき言った。
三菱商事が導入した方法は、山間部にクルミなどの収穫できる作物を植え、そこから得た収入を付近に住む貧困児童の就学支援に充てるというものだ。2006年以降毎年日本円にして400万円以上を寄付、河北省盧龍山間部で中国緑化基金会と合同で就学支援プロジェクトを立ち上げ、盧龍県棋盤山にエコフォレストを造った。
過去5年間でクルミ、リンゴなどの作物を植樹した面積は1800ムー(約120万平米)、その収益をかの地の上庄小学校の教材購入に充てると同時に住民の収入を増やす手段とした。5年前に植えられたそのクルミは今年人の背丈ほどに成長し数十個の実を実らせている。そしてそのクルミの木の足元――5年前には荒れ放題だったその場所―― にはサツマイモが植えられている。
今年9月、三菱商事北京事務所のスタッフ数十名は再び盧龍県を訪れ、上庄小学校の児童と共にクルミを収穫した。豊作だった。そのクルミをスタッフが買い取ることで現金化し、そのお金で書籍と体育用品を購入、武田さんの提唱した支援プロジェクトのもと、小学校の学習机や椅子なども交換され、「三菱商事グリーンライブラリー」と体育施設が新設された。“気持ち”はきっと児童たちに届いたに違いない。
「ここ盧龍県と同様のプロジェクトを今後は他の地域にも広げていきたいと考えています」
スタッフの一人が言った。
武田さんはすでに三菱商事を退職している。しかし彼が導入した社会貢献の方法は今もなおしっかりと受け継がれている。
「Billion Beats 日本人が見つけた13億分の1の中国人ストーリー」より
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2011年10月8日