文=章玉貴 上海外国語大学国際金融貿易学院院長
アジアの主要経済体が全体的に通貨安となっている。円の対ドル相場は「20年ぶりの円安」で、ウォンの対ドル相場は「自由落下型」のウォン安に入り、人民元が元安の強い圧力を受け、インド・ルピーも最安値となっている。
衝撃に耐える力が弱いアジア諸国の通貨の軒並み下落には、次の3つの原因がある。(1)現在の世界の極めて敏感な金融伝導メカニズムにおいて、米連邦準備制度理事会(FRB)が過去40年で最も深刻なインフレを抑えるため異例の金融政策を発表した。これは経済的に米国に強く依存するアジアに「サイフォン現象」をもたらした。(2)ロシアとウクライナの衝突による世界的なエネルギー危機の最適解を短期間内に見いだせず、インフレの圧力が拡大を続けるなか、輸出志向型を中心とするアジア諸国は政策の選択に同じ傾向があり、自国通貨安による相殺効果を期待しがちだ。(3)各国の金融政策に「合成の誤謬」という現象が生じ、通貨安競争が効果的に抑制されなければ負のスパイラルに陥る危険性がある。
この肝心要の時、経済面ですでに高度に連動しているアジア諸国は直ちに行動し、日増しに危険性を増す自国通貨安の流れに共同で対処するべきだ。実際に日本政府は急激な円安が経済にもたらす衝撃を意識しており、韓国もウォン安の輸出けん引効果が限定的であることを意識している。インド中央銀行も持続的なルピー安を放任しない。これはインドの原油のうち80%が輸入に依存しているからで、ウォン安が続けばインド国内の物価上昇の圧力がさらに拡大し、貿易の不均衡が深刻化するからだ。世界最大の輸出国である中国は、米国との間に事実上の金融政策の時期のズレが存在するため、人民元が短期的に一定の圧力を受ける。しかし国内における今回の感染拡大抑制の転換点の到来により、操業・営業再開が徐々に始まり、ペースを上げていくことで、為替市場も経済好転の期待感により徐々に安定化することになる。
地域経済・貿易協力と取引コスト削減について見ると、アジア太平洋諸国間の二国間もしくは多国間貿易の密集度と規模はすでに、世界の主要貿易圏の上位を占めている。市場の直感が極めて敏感な各国の政策決定者と貿易業者は、長期的な通貨安が急場しのぎの危険な手段に他ならないことを熟知している。地域にすでに存在する自由貿易協定や、推進中の投資・貿易円滑化の措置は、アジア諸国が繁栄と共生の発展の軌道に乗るよう促している。
当然ながら現在の世界の3大主要経済圏のうち、アジアは真の経済高度一体化メカニズムを形成していない唯一の地域だ。既存のメカニズム化された金融の覇権を握る一部の域外国が、中日韓及び中日韓と東南アジア・南アジアによる経済・金融協力の強化、特に経済一体化の流れを望んでいないことは明白だ。
アジアの主要経済体は重要な時期に歴史の責任感を持ち、経済・貿易一体化を共に促進する中で二国間及び多国間の金融協力を強化するべきだ。これにより効果的な利益供給メカニズムを見つけた上で、国際経済・金融秩序の構築におけるアジアの重要な役割を築き、地域の経済力にふさわしい国際的な義務を果たすべきだ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2022年5月23日