技術上のボトルネックは採掘の障害の1つに過ぎない。開発コスト面から見て、メタンハイドレートが経済効率的に石油や天然ガスに比肩しうるかどうかも疑問だ。メタンハイドレートの放出する気体は体積が大きく、輸送が極めて困難で、海底パイプラインを建設するか液化する必要があるため、採掘だけでなく貯蔵・輸送コストも相当高くつくと専門家は指摘する。こうした障害は短期間には解決困難だ。
エネルギー面の苦境を脱しようと焦る日本の気持ちは理解できる。だが科学技術は客観的法則を尊重しなければならない。焦っても問題の解決にはならない。原子力の利用において「安全上越えてはならない一線」を克服することのできなかった日本が、メタンハイドレートというさらに不確定性の大きいエネルギーの利用において、さらに深刻な生態と環境への危険を前に、どうして安易に楽観的になることができるのだろうか?
エネルギー問題は確かに現在世界が金融危機の暗雲を脱するうえで肝要だ。蒸気機関の時代は石炭を利用し、内燃機関時代は石油や天然ガスを利用した。未来の時代に「新エネルギー」が必要なのは確かだ。だがメタンハイドレートは明らかに違う。本質的に、別の形の天然ガスに過ぎないのだ。