米国が仕掛けた中米貿易摩擦が激しさを増しており、その影響は日本を含む世界経済に影を落とす可能性も出てきた。この中米貿易摩擦を見て、1980年代から90年代にかけて展開した日米貿易摩擦を想起する人も少なくないだろう。両者の共通点と相違点、そしてこの中米貿易摩擦に対して日本の取るべき行動について、中日関係と世界経済に詳しい江原規由氏に聞いた。
7月10日、米国通商代表部は新たに6031項目、2000億ドルの中国製品に対して10%の関税を適用すると発表した。この措置は早ければ9月にも実施される
——7月に入り、米国は340億ドル相当の中国製品に対して25%の追加関税を正式発動し、対する中国政府は関税報復措置を実施しました。エスカレートする中米貿易摩擦は、両国にどのような影響をもたらすでしょうか。
江原規由氏 世界第1位と第2位の経済大国の貿易摩擦は、2国間だけでは済まない広範な影響を世界経済・貿易に及ぼしています。アメリカファーストに代表される反グローバリズムの姿勢をとる米国に対し、WTO(世界貿易機関)精神の多国間自由貿易体制を支持する中国という構図が形成されていますが、世界には中国の主張、つまり自由貿易体制の維持を支持する国が多いことが明らかになったと考えられます。
日本も中国と同じ立場にあります。今回の貿易摩擦は時代の潮流に合った今後の世界貿易ガバナンスの形成にとって、「災い転じて福となす」となり、総じて、中国の求める公平で客観的なグローバルガバナンスの改革への大きな第一歩になると期待できるのではないでしょうか。
中米貿易摩擦の影響については、いろいろな見方や予測がありますが、例えば、米国に本拠を置く世界的な金融機関グループであるモルガン・スタンレーによると、中国の国内総生産(GDP)を0.1ポイント押し下げる(その後発表された2000億ドル相当の中国製品の対米輸出に10%の関税が課せられると、間接的影響も含めて同0.5%~0.8%の押し下げ)と予測されており、2019年のGDP成長率への影響には大きいものがあります。一方、米国経済にとっては、貿易摩擦が持続・悪化すると、GDPを0.3%から0.4%押し下げると予測しており、マイナス影響は米国の方が中国より大きいとみています(今年のモルガン・スタンレーの米国のGDP成長率予測は2.2%)。
今回の貿易摩擦で重要な視点は、どの国、どの国の人々にとっても益するところがほとんどないということです。世界の発展に大きく影響しかねない事態にどう対応してゆくのか。今回の貿易摩擦は、「共に話合い、共に建設し、共に分ち合う」の『三共』精神をプラットフォームとする「人類運命共同体」の構築を掲げる中国にとって、中国の知恵を発揮する機会でもあるといえるのではないでしょうか。世界はその行方に注目しているといえるでしょう。