すでに亡くなった米国の著名な記者、サルツバーガーが、その著作の中で、1950年代に彼がアジアの指導者たちと会見したとき、「彼らが電話で話す声が格段に大きいことを発見した」と書いている。
しかし実は、アジア人が電話で話す声がみな大きいと言うのは、いささか独断にすぎる嫌いがある。アジアと言っても国によって状況が違い、同じ国でも地方によって違いがある。話し方の習慣も同じではない。
農耕が主であった時代、人々は広々とした田畑で働いていたので、大声で話さなければ、相手ははっきり聞き取れなかった。おそらくアジアは都市化されてからまだ間がないので、以前からの習慣で、話し声が比較的大きいのだろう。
古の中国では、「声は洪鐘(大きな鐘)の如し」というのが英雄豪傑に対する賛辞となっていた。例えば『三国演義』で張飛は、「一喝して橋を断ち、水は逆流す」と描かれている。なんという気迫であろうか。
電話で話す声が大きいと、それが自室ならいっこうにかまわないが、公共の場所では人に嫌がられる。会議の席で、傍若無人に携帯電話で話をするような人も、決して珍しくない。
ロンドンの地下鉄で英国人が電話で話す声は小さくないが、逆に日本人は携帯をマナーモードに切り替えておくのが習慣になっていて、電話がかかってきても小さな声で話し、できるだけ他の人に影響を与えないようにし、自分のプライバシーも守っている。
現在、地球上で携帯は46億台を超し、中国でも5億台以上が使われているという。世界はすでに携帯が当たり前の時代になった。「電話のかけ方の礼儀」とはどうあるべきか、これは議論に値する問題である。
趙啓正
1963年、中国科学技術大学核物理学科卒業。高級工程師などを経て1984年から中国共産党上海市委常務委員、副市長などを歴任。
1998年から国務院新聞辦公室・党中央対外宣伝辦公室主任。
2005年より全国政協外事委主任、中国人民大学新聞学院院長。
「人民中国インターネット版」より 2010年5月19日