農民の中流階級を育成
都市部の中流階級よりも農民の中流階級の育成のほうが、発展途上国にとっては参考になるだろう。農民が中流階級の重要な構成要素となったことが、日本の社会安定に大きな役割を果たしているのである。
都市化はどうしても大量の土地を占用してしまう。日本もこれからは逃れられない。しかし、日本は早い時期に都市化を推進する中で、農民の土地権益の保護を重視した。農民から高値で土地を買い戻し、強制的な立ち退きや土地収用はあまり行われなかった。
土地の収容が順調にいかず、方法を根本から改めなければならなかった建設工事もある。成田空港の建設では何世帯かの住民が立ち退きを拒否したため、第3滑走路がいまだに建設されていない。他にも、東京近辺の都市鉄道の一部区間はカーブがきつく、列車の接触事故が起こったことがあるが、それもある住民が立ち退きを拒否したためにルートの変更せざるを得なかったことが原因である。このように強制的ではない土地収用は効率が悪いという一面があるものの、良い面もある。日本は都市化の過程で、一部の発展途上国で生まれている「失地農民」を作り出さなかった。それどころか、土地を売った農民は手にした資金を都市部の不動産や中小企業の経営に投じ、生活は豊かになり安定した。
農民の増収を促進するために政府はさまざまな措置を講じた。例えば、農産物の最低価格の保障、貿易保護措置、農産物の厳格な輸入制限、兼業農家の奨励などである。こうした政策の下、農家の収入は都市住民と同じくらいのペースで増加。都市住民の増加ペースを上回った時期もある。このことが、日本の社会の安定と政権の安定に大きく影響しているといえる。
一方で、農民は社会の安定を維持する重要な力となっている。農民の主な生産手段は土地という大きな固定資産であり、これによって暮らしが豊かになっているため、社会の安定を願う。都市化と農村の昔からある生活方式や社会関係との間に根本的な衝突は生じていないため、日本の農村には伝統的な社会の良好な人間関係や道徳がいまだに残っている。都市部より治安が良いだけでなく、住民たちは自発的にグループ活動を組織し、文化的生活を送っている。
もう一方で、農民は政権の安定を支える重要な力となっている。1955年からの自民党の長期執政時期、農民は重要な支持者であった。その主な原因は、農民はある意味で「既得利益集団」であり、政策の変化を望まなかったからである。農協は農民の日常の生産と経営を管理しているだけでなく、政治組織としての機能も兼ね、選挙や日常政策を押し広める上で大きな役割を果たしている。このような組織によって農民の政治エネルギーは普通の都市住民より高まり、自民党の有力な集票基盤になっている。09年の衆院選で自民党は惨敗したものの、一部の農村部では依然として優勢である。
各種の政策によって、日本は「棗の種の形」の安定した社会構造を形成し、中流階級が圧倒的多数を占めるようになった。彼らは衣食や家庭用品の面で憂いはなく、住まいや医療、教育問題についても過度な心配は必要なく、将来に対して期待を抱ける。このことが日本の社会安定の基礎になっているのである。日本の駅ではセキュリティチェックを実施していない。国内線に乗るときに身分証を提示する必要はなく、街角で見かけるおまわりさんも自転車に乗って警棒を持っているだけだ。このような調和のとれた社会秩序は、法律執行機関のおかげだけではないだろう。その根本的な原因は社会の富の公平な分配にあり、人々の心の安定、現有の社会秩序によって安定を維持されているのである。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2010年8月24日