文=コラムニスト・陳言
今回の不信任案騒動は、中国人の目にどう映ったのだろうか。震災後の「美徳の国」に起こった突然の政争は、中国の人たちにとっては理解不能である。何よりいまの中国が求めるのは、日本の政治の安定と原発事故の一刻も早い終息だ。
劉江永教授
中国の有力ウェブサイト・新浪ネットのテレビ対談番組に出演している清華大学当代国際関係研究院の劉江永教授は、6月2日に日本の国会で不信任案が否決されたことを確認して安堵した。
「日本では新たな一大混乱はなんとか避けることができた。菅さんも来年まで首相の責務を果たすのではないか」と、対談の中で繰り返して強調した。当日の午後5時(現地時間)ごろのことだった。
どのニュースサイトも日本の政局がトップページを飾っており、日本の政治は不信任案によって危機的な状況にあると報じていた。しかし、もともと菅首相の写真を多くは持っていないためか、日本のメディアが使っているような、下を向いてやつれた菅首相の写真はさほどなく、明るく微笑んでいる写真ばかりだった。危機というイメージはあまり伝わっておらず、実際、菅首相はうまい具合に、その危機を乗り越えたように見えたのだ。
「中国経済は、今後いろいろな局面で、経済大国の日本に助けてもらわなければならないが、日本がどんどん弱くなっていくのは、中国にとって絶対に良いことではない」と、日本経済研究者の顔志剛氏は言う。「しかし、日本の政治的な不安定は、もう5年も続いている」(顔氏)。今はさらに大地震、原発事故に遭遇し、しばらくは停滞から抜け出せないようだ。せめて日本の政治は安定してもらいたいと、多くの中国人は思っている。
◆中国は菅政権を快く思っていなかったが……
昨年の6月に誕生した菅政権に対し、その脱・鳩山外交路線を見て、中国はあまり快く思ってはいなかった。
鳩山外交がどこまで目的を実現できたかは別にして、友愛外交の名のもとで主張された「東アジア共同体」ドクトリンは、中国にとっては分りやすい概念だった。しかし、鳩山氏の次に首相の地位に就いた菅直人氏は、ほとんど「東アジア共同体」に言及することはなかった。
「日米基軸重視に戻ることが、菅内閣の外交だろうと思っていた。菅内閣では、漁船衝突事件もあったし、中日関係がうまくいくことなどあまり考えられなかった。2012年の中日国交正常化40周年の時には、両国ともに関係をやり直すのではないか」と、中日友好運動の仕事をするある政府官僚はつぶやく。
しかし、3月11日の大地震、津波、その後の東電福島原発事故で、中国と日本はいち早く関係を回復させた。