福島県内の畜産農家から出荷した「放射能汚染牛」が全国範囲の市場で出回り、消費されている問題が明るみになり、国産牛肉の消費市場では、BSE(狂牛病)以来の大きな騒ぎになっている。この「放射能汚染牛」問題は、原発事故の被害範囲の広さやリスクの大きさがこれまで日本政府が安全と認定した範囲やレベルを上回る恐れがあることを示している。また、食の安全を支える日本の管理システムが問われている。
共同通信社が伝えた内容によると、今月17日の時点ですでに143頭の暫定基準値を超えるとみられる放射性セシウムに汚染された肉牛が福島県の畜産農家から出荷され市場で出回っている。これらの肉牛の流通先は東京都を含む37都道府県に広がっており、その牛肉のほとんどが小売業や外食産業などのルートを経て、消費者の口に入っている。
日本政府および福島県の関係当局の調査によると、水田から刈り取った稲わらを、福島県の一部の畜産農家で牛に食べさせていたことが牛の内部被ばくの主な原因であるという。稲わらは牛の主食ではないが、肉質が良くなるので肥育期に食べさせる畜産農家が多い。その稲わらから高濃度の放射性セシウムが検出されている。また最近では、福島県郡山市にある牧場で飼料として与えている稲わらから1キロ当たり50万ベクレルもの放射性セシウムが検出された。この値は日本政府が取り決めた暫定基準値の約378倍に相当する。
高濃度の放射性セシウムが検出された稲わらは屋外に置かれていた。とはいえ、上記の地域はいずれも政府が設定した「警戒区域」、「計画的避難区域」の圏外であり、福島第一プラントから半径60~100キロメートルも離れた場所であることが世間を驚かせている。
今回の「放射能汚染牛」騒動により、原発事故以来、福島県民を含む日本人の多くが懸念してきた放射能汚染の拡散や高いレベルの汚染地帯=ホットスポットが生れるという問題がまたもや浮上してきた。「ホットスポット」とは、日本政府が設定した放射能汚染区域以外に、地形的条件や風向き、降雨などの気象的条件により、スポット的に高濃度な汚染が見られる地域を指す。特に福島県内ではその「ホットスポット」の数が著しい。原子力専門家によると、原発事故のプラントから80キロメートルも離れた福島市内でも、チェルノブイリ原発事故時の強制移住レベルを超える放射能汚染度を示す地域がいくつもあると試算している。東京を中心とする首都圏でも、こうした「ホットスポット」が相次いで出現している。千葉県柏市、東京都葛飾区などでは、一般人の年間許容放射線量の累積値である1ミリシーベルトを超えた値が検出されている。国際放射線防護委員会(ICRP)は、原発事故などが起きた後に周辺に住む人の年間被ばく限度量は1ミリシーベルトが妥当であるとの勧告を出している。少し前、静岡産の茶葉に高濃度の放射性セシウムが検出されたのは、この「ホットスポット」の形成に関係している。