三潴正道(麗澤大学教授)
はじめに
本稿は、過去30数年間にわたる教育実践の成果をまとめたものである。
当初の初歩的な取り組みから長い年月をかけて改良を重ね、漸く現在の形式に定着した。
完成した「“レベル”学習システム」は大方の支持を得て、現在では他大学はもちろん、市民向け講座・企業人向け訓練講座・全国ネットでの通信教育にまで発展し毎年延べ300人以上が受講、その中からレベル30を突破した者で構成するプロの翻訳者を目指す集団『而立会』が誕生した。
今では年平均5~8名ほどの新会員が誕生し、会員総数は既に150名を突破。研鐙を重ねながら,継続的に翻訳書を出版できる体制を整えつつある。
[一]早期の読解力養成の意義
かなりの人が持っている2つの誤解がある。
1つは「中国語の発音や会話もできないのに読解力が身につくはずがない」というもの。今1つは「日本の英語教育は過去、読解力の養成にのみ傾き、その結果が“会話に弱い日本人"をつくってしまった。したがって、中国語教育においてもまず会話力をしっかり養成しなくてはならない」というものである。
前者については、この『レベルシステム』の成果がその誤りを真っ向から証明している。発音や会話力と論説体読解力の向上には顕著な関連性もなければ、学習上のあるべきプライオリティもない。麗澤大学の実践で証明されたことは、大学に入学して初めて中国語を学んだ学生でも、1年間中国語の基礎を勉強した後、2年生になって真面目に取り組めば1年間でほぼ新聞を読めるようになってしまう、ということである。
これによって麗澤大学の学生の場合、3年生からの後期課程で原文で書かれた文章やインターネットを駆使して研究が進められるようになり、和訳資料にばかり頼らざるを得ない状況から脱することが可能になった。
現在、日本の大学では大学院でさえ原文をまともに読みこなせない中国研究者の卵が多い。これでは質の高い研究は望めないし、急速に変化する中国を理解することは到底不可能である。
後者は、コミュニケーションカを重視した考えによるもので、過去にはそれなりに説得力があった。しかし、現代のようにインターネットが益々発達し、,ネットを通じてのコミュニケーションや情報収集活動が飛躍的に発達する中、“読めること"の重要性もまた以前とは比べものにならないほど高まっている。
余談になるが、昨今日本の大手企業で中国に進出を果たしていない企業はむしろ少数に属する。一方で、そのような日本を代表する大手企業でさえ中国の新聞や専門業界紙あるいはインターネットから直接情報を取れる日本人社員は数えるほどしかいないし、ほとんど養成してもいない。情報を先取りする重要性がますます高まっている今日、この状況は何とか打開しなければならない。