戦争責任の追及にせよ、憲法第9条を守るにせよ、核兵器核武装に反対するにせよ、言論界はいつも「赤狩り」の中にあるようだ。異なる意見を持つ者はその全てが右翼というわけではない。しかし発言すれば罪を着せられ、地位や職を失うため、誰も声を出そうとしない。「非正義的」とみなされる一部の言論は、どこにも見当たらず、国民も思考や議論の機会を失ってしまった。
そして戦争の反省に至っては、「平和」を極端化し、日本国民が受けた被害ばかりを取り上げ、日本軍侵略の加害的一面を無視、或いは覆い隠して、日本だけが最大の被害者と言わんばかりである。
今の若者には精神的負担も罪悪感もない。所謂「正義」の「赤狩り」は、逆に彼らをして、自由な発言ができない右翼的言論に同情させ、それを受け入れさせ、そして、その支持者となるまでにしてしまった。右翼のほうでも、世間体を気にしないところまで行き着くともう怖いものなしである。一度進歩勢力の堰を突破すれば、あとは長年押し止めていた主張を自由に放出させるだけである。
2008年、「大東亜戦争は戦略戦争ではない」「侵略国家は濡れ衣」等と主張して更迭された元航空幕僚長田母神俊雄も、その代表的人物である。自衛隊退職後は、以前にも増していたるところで日本は「侵略国家ではなかった」と公言、さらに日本は核武装すべきだと主張している。驚くべきことに、彼の主張は、ネット上で六七割の支持率を得ている。最近六本木で行われた反中デモの主な主催者の一人がまさに彼だった。
最近のデモ隊の中には、ドイツファシズムの「ハーケンクロイツ」腕章をつけた制服を着た者や、「日本軍国主義復活」の横断幕を揚げた者が大勢いた。
近年の日本における「右翼」「嫌中」の流れは、そのほとんどが若者であるとの指摘もある。これらの中国を知らずに「嫌中」に参加する若者は、主に鬱憤晴らしがその目的である。中国に対する不満だけではなく、今自分たちが置かれている生活水準の低下、就職難、将来への絶望による精神的ストレス等、彼らは様々な鬱憤を抱えている。そこに、伝統的メディアやネット上の言論の扇動を受け、「嫌中」の列に足を踏み入れただけのことである。
(4)権力:「青年将校」