貧富格差の問題は、米国の2016年大統領選を左右した大きな問題と言える。米国の貧富の差はいったいどれほどなのだろうか? これには多くの機構が推算を行っている。どの機構が出すデータもほぼ一致している。米国社会においては、人口の0.1%の超富裕家庭が、下層90%の家庭の資産総量に匹敵する資産を持っているというのである。これほどの所得格差はいかに広がったのだろうか。
第一に、世界経済の長期的な低成長が所得格差をもたらしたのは間違いない。トランプ次期大統領が将来直面する外部の経済環境は楽観を許さない。主要国の需要は不足し、貿易は低迷し、経済発展は推進力が足りない。世界的な需要不足は、中産階級の収入の増加を阻み、所得格差をぐんぐんと広げた。米国経済はわずかに上向いている。だが世界経済に目を向ければ、リスクは増し、統治ルールは有效性と包括性を欠き、主要国の経済成長は不確実で、トランプが収入の大きな溝を埋めようと思っても外部経済環境が整っていない。これに加えて、米国本土の経済や政府の重視不足といった要素も、国民所得分配における普通の労働者の不利なポジションがなかなか転換できないことにつながっている。
第二に、減税政策が、所得の不平等を助長しかねない元凶となっている。経済の不景気を抑制する経済政策(主に減税政策)は昔から、貧富の差を拡大する傾向にある。減税は、経済復興の核心的な手段として、レーガンとそれに続く政権に取られてきたが、実際には、減税措置で得る収益は収入の高い層ほど大きい。最も富んだ層には減税し、90%を占める富んでいない家庭には増税するという現象まで生まれた。トランプが現在主張している減税政策は、単純な公平と経済衰退抑制という二重の効果をねらったものと見えるかもしれないが、実際には、ポストレーガン以降の減税政策を繰り返し、人口の0.1%の極少数の富裕層をひいきするものとなる。
第三に、技術の進歩は労働生産性を大きく高めたが、従来の労働を少しずつ時代遅れにしつつある。もしも収入構造における再分配ができなければ、もしくは産業構造と報酬の再調整ができなければ、技術進歩によって所得格差の拡大がもたらされる「マタイ効果」を脱却することは難しい。
第四に、人種差別などの深層にある社会問題も、所得の不平等に対処する上での束縛となっている。貧富の大きな差の形成には、米国社会の深層にある問題も深刻に影響している。例えば人種差別問題だが、米国の公共政策と法律・法規には差別的な条項は珍しいが、人種差別は経済・社会の隅々に根付いている。米国の黒人の教育水準は今でも白人より低く、黒人の就業は明らかに低所得分野に集中している。
最後に、トランプの選挙キャンペーン中のスローガンと政策の多くが草の根の支持を集めたことは、実際には、グローバル化や所得格差に対する米国社会内部の反応であり、米国の経済・社会に長期的に累積してきた問題が拡大したものと考えることができる。だが落ち着いてよく考えれば、米国の貧富の差などの経済・社会の問題は一日や二日で解决できるものではない。しかも提案されている政策の多くも、理性的に対応した最善の選択とは言いがたい。例えばトランプは、移民の制限という政策を提案しているが、人種の矛盾や社会階層の矛盾をいっそう激化するもので、階層間の衝突を緩和し、所得の不平等を縮小するという現実の求めとはまったく違う方向を向いている。トランプの減税政策も、レーガンの大規模減税を手本とし、経済不景気の局面を抑制しようとするものだと言われはするが、結局は、収入格差のさらなる拡大というおなじみの道をたどるものとなるだろう。さらに英国がEU離脱を選択しグローバル化の「負のスピルオーバー効果」をかわそうとしているように、トランプは貿易保護を唱え、「メイド・イン・アメリカ」を回復し、国境などからの労働者の流入は断固規制するとしているが、中産階級の負担を増やすことになり、拡大し続ける貧富の差を補うことには逆に働きかねない。長期的に見れば、経済状况を改善し、国際的な対話と協力を強化し、イノベーションを促進し、所得再分配を有効に行うことこそ、貧富の巨大な差を根源から解決する良策と言える。
(著者:任琳。中国社会科学院世界経済・政治研究所国際戦略室副主任、副研究員)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2017年1月7日