2004年３月23日、黒のスーツに身を包んだ銀髪の小沢征爾氏が、北京市新開胡同69号の四合院（北京の伝統民家）に姿を現した。小沢氏の８回目の里帰りである。小沢氏は亡き母の遺骨と遺灰を埋めた花壇に手を合わせると、同じ庭を囲んだ隣人たちを訪ねた。昔馴染みの面々が高級緑茶の碧螺春茶でもてなしてくれる。「子供の頃の家が懐かしく、飛行機を降りるとすぐにやって来ました」と、小沢氏は院の中庭を眺めて言った。

85歳の程貞淑さんが隣人を代表して、小沢氏に中国伝統楽器の絵葉書セットを、もう一人の隣人が小沢氏の長寿と健康を願う磁器製の長寿亀を贈ると、感激した小沢氏は自分がタクトを振るコンサートに彼らを招待した。小沢氏は家を離れる前に隣人たちと記念写真を撮り、「写真ができたら、私の分を忘れずに取って置いてくださいよ。次に訪中した時に必ずもらいに来ますから」と、念を押した。

1930年代初頭、小沢征爾氏の父親は中国東北地区で医師として働いていた。1935年に瀋陽で生まれた小沢氏は、1936年に北京に移り、新開胡同69号の家に住んだ。その後、６歳の時に両親とともに北京を離れ、日本に戻っている。自分の頭には､幼年期を過ごした北京の思い出が､一杯詰まっていると、小沢氏は言う。2002年に母親が亡くなると、小沢征爾氏はその遺言に従い、分骨した遺骨と遺灰を北京の旧宅の花壇に埋めた。北京に来れば、どんなに忙しく疲れていても、小沢氏は必ず旧宅に寄り、亡き母に手を合わせ、隣人を訪ねている。

小沢征爾は中国音楽界に多くの友人がいる。中国の著名なピアニストの劉詩昆氏は、「小沢氏の心はずっと中国と結ばれています。彼は中国の音楽家をよく助けてくれました。私たちの友情は今日も続いており、一度も途切れたことはありません」と、小沢氏との友情を語った。

小沢氏はこれまでに８回の訪中公演を行っているが、毎回時間を割いては古い友人たちの家を訪ね、親交を温め合う。「ただ今、また帰ってきたよ！」。これが小沢氏の挨拶だ。

2005年初頭、小沢氏はハイレベルの中国人音楽家を育成するため、若い音楽家を対象とする「小沢征爾音楽塾」を中国に開設すると語っている。