大前研一氏
◇グローバル化とイノベーションの勧め
記者:現在、数多くの中国企業がグローバル化に向けて努力していますが、国外での投資や経営面でかなり苦労しているようです。経営コンサルタントとして、グローバル化を目指す中国企業に何かアドバイスはありますか?
大前氏:まずは成功を焦らないことが肝心です。世界のブランド企業となるには長い時間をかけなければならないし、それ相応の代償も払わなければなりません。30年かかる道を5年で成し遂げようとしてはダメなのです。
日本企業のグローバル化の第一歩はアメリカ上陸でした。アメリカ市場に参入した当初、たいていの日本企業は、特許訴訟や政策などの壁にぶち当たりました。ソニー、パナソニック、トヨタなどといったグローバル企業は40年以上もの歳月をかけて今の地位を築いて行ったのです。
記者:企業のイノベーションを推進するにはどのようにすればよいのでしょう?人民元切り上げ、コスト上昇や、ハイエンド製品を生み出す外資系企業による利益搾取などの難局に対し、中国企業はどのように対応すべきなのでしょうか?
大前氏:中国経済が競争力を維持するためにはイノベーションは不可欠なことです。かといって、所得倍増などの政策があったからイノベーション力が育つ、という訳ではありません。
エジソン曰く、必要は文明の母なのです。これに関しては日本企業が歩んできた道を見れば分かるでしょう。今、中国企業が抱える問題は、当時の日本企業のそれとよく似ています。難局を打破する方法としては、生産率を上げること、つまり同じ労働力でより多くの製品を作ること、あるいは新たなものを創出することなのです。
もう一点述べておきましょう。いわゆるイノベーションとは、長い歳月をかけ、努力や費用を惜しまず行なわれるものです。人民元対米ドル為替レートはこの6年間で、8元から6.5元に値上がりしました。ですが当時、日本円対米ドルレートが4倍もの値上がりを見せた中で、日本企業は悪戦苦闘してきたのです。多くの企業がより高い競争力をつけるために、利益の20%をブランド構築に、売上高の10%を研究開発に費やし、またビジネス体系の改善に尽力していました。そうした企業の一部が最終的に世界トップレベルの企業として躍り出ることができたのです。当時、アメリカがこれでもかとばかりに日本に与えた難局に感謝すべきなのでしょう。日本企業は何度も苦境にさいなまれながら、それを克服する術を身につけたのですから。今ではレートがどのようであっても利益を出せるようになっています。
◇競争心がイノベーションを起こす環境を生む