◇競争心がイノベーションを起こす環境を生む
記者:ですが、今の日本企業にはイノベーション力がないと言われています。かつて世界からそのイノベーション力で絶賛されたソニーや東芝も今ではその衰えが目立ちます。また、インターネット産業、新エネルギー産業の分野において日本企業が後れを取っているようです。これらについてはどう思われますか?
大前氏:そうなのです。業界大手と呼ばれる日本企業の一部が少しずつイノベーションの原動力を喪失しています。競争の激しかった数十年前と比べると、そのトップの地位に立ったものはどうしても努力を怠りがちだからです。
業界大手であることに胡坐をかき、前に進もうとしないという点では、今後、中国でも同じ問題が浮上してくるでしょう。中国の若者はみな公務員、ファンドマネージャー、不動産関連業務の仕事に就きたいと思っています。なぜなら、起業してイノベーションを起こすよりもその方が容易く、より多くの収入になるからです。また、別に海外進出しなくても中国国内の市場だけでまだまだ稼げると思っている企業も少なくありません。
私が見たところ、中国の成都や重慶、東北部などといった、経済的に最先端でない地域で、イノベーションが起こるようになると思うのです。北京や上海といった大都市にはビジネスチャンスがごろごろ転がっていますが、イノベーションを呼び覚ますものに欠けているような気がします。
記者:イノベーションが重要であることは、中国の政府、企業とも充分に分かっているはずですが、イノベーションを奨励する体制や社会風土を創るにはどのようにしていくべきなのでしょうか?競争の中で生れるものなのでしょうか?それとも政策として推進すべきなのでしょうか?
大前氏:独占的企業に頼ったイノベーションを政策として掲げて成功した例はどこの国でもありません。これまで中国政府がイノベーションの重要性を説いてきたのは褒めるべき事でしょう。ただ、実際には、市場に対し不必要なコントロールを行なわないことが賢い手段と言えます。今、国営企業が市場シェアの大部分を占めていますが、それは若い世代のチャレンジ精神をそぐことに他なりません。若い世代こそがイノベーションを推進していく主体となるのです。政府はその力を充分に発揮させなければなりません。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2011年7月8日