次いで、日本における精神の継承は衆目の一致するところだ。この伝統は明治維新時代から継承され続けている。日本のノーベル賞受賞者の背景をみると、彼らの間に代々伝わる精神の継承を見出だすことは難しくない。日本の科学者の自立は、教師たちから代々受け継がれており、彼ら教師はその慧眼で大勢の学生の中からハイレベルな科学者の人材を発掘している。2002年、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊は、1965年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎の推薦で米国ニューヨークのロチェスター大学に留学している。2008年に物理学賞を受賞した小林誠と益川敏英はともに戦後、微粒子学の基礎を築いた坂田昌一教授の弟子だ。2002年、物理学賞を受賞した小柴昌俊の指導教授は、2008年に物理学賞を受賞している南部陽一郎で、しかも南部教授の師匠は朝永振一郎だ。朝永振一郎教授、小林誠教授、益川敏英教授はともに日本で初めてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹教授が1946年に創刊した科学雑誌で論文を発表し、受賞している。しかも2010年化学賞を受賞した根岸英一は米国のパデュー大学で博士課程を学んでいるが、その時に師事していたのはすでに亡くなった1979年ノーベル化学賞受賞者の米国のハーバート・ブラウン教授だった。
そして日本の科学者の終始一貫した粉骨砕身の努力、揺るぎのない職業意識は、多くの分野で急速に欧米の先進国に追いつき、世界トップレベルの地位を維持させている重要な要素だ。日本の研究者が自由で自立して研究していることが、研究分野で成果を上げるための要となっている。日本の大学教授や研究所員が課題を申告するルートや形式は、実際は課題登録制で、いちいち審査は必要ない。一定額の経費はすぐに下り、数年間の研究は保証される。数年一日のごとくに終始しっかりと科学研究にまい進でき、PR活動や経費申請などに気を使う必要はなく、外部からの干渉を受けずに、かなり充実した科研費と良好な研究環境が独立した自由な科学研究をするために制度的に保証されているのだ。言い換えれば、独立して自由で干渉を受けないことは、日本の科学者がノーベル賞を次々と受賞している主な理由といえる。しかも、日本の大学のほとんどは研究型の大学で、研究が教育に連動しており、教育型の学校ではない。これが、日本がハイレベルの科学研究成果を頻出させる重要な理由だ。
日本の科学者はまたチームワークを重視する。難しい研究課題はよく各自が意見を持ち寄り、互いに学びあって、長所を取り、短所を補いあって、チームとして全体的な力を発揮する。学術研究面でも、よく徳が高く人望がある科学者がある研究課題を提示し、初歩の研究計画を決め、その後一部の学者や研究者の知恵を広く募って、知恵を結集して最終的な研究案を決め、細かく手分けする。これもまた日本がハイレベルな研究成果を出せる重要な要素だ。
この他、日本の科学者の職業的地位は高く、給与待遇がしっかりしていることも全力で教育や研究に取り組める有利な条件を提供している。権威ある社会階層と社会移動全国調査 (SSM調査)の 1995年の調査結果によれば、日本にある187の職種の中で大学教師が職業として尊敬されているポイントは83.5点,裁判官、弁護士の87.3点に次いで2位で、大企業上級管理職の73.3点や国家公務員の70.5点、芸能人の58.2点などを大きく引き離している。収入面でも、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の結果によれば、2008年の日本の大学教授の平均賃金は1122万円と大幅に国家公務員663万円を上回っている。