2)社会人への波及
平成10年ごろから大学の授業に社会人の聴講生が増え始めた。彼らは学生と違い卒業がないので何度でも挑戦する。その中から漸くレベル30突破者が現れたのが平成14年であった。そして年々突破者が増え、その突破者から更にプロの翻訳者を目指して勉強を続けたい、という要望が寄せられるようになった。
こうして平成16年に発足したのが而立会である。レベル30突破に因み、孔子の言“三十而立”から引用して“而立会”と命名した。而立会のその後の発展については、本論の「はじめに」で述べた。既に日本僑報社から『氷点停刊の舞台裏』、『今、中国が面白い』などの翻訳を出版している。
特筆すべきは、平成19年春に卒業した3名の学生が在学中既に而立会に入会を果たし在学中からこの翻訳に参加したことであろう。いずれもが高校段階で少し中国語に触れただけか、大学入学後初めて中国語学習を開始したもので、レベル学習を始めた20数年前には予想だに出来なかったことである。
社会人、特に企業人の研修も数年前から始まった。中国ビジネスが盛んになるにつれ、企業でも「読める人材」育成の二一ズが高まり毎週月曜日の夜2時間、企業人向けレベル学習を始めた。数年を経て、ここからもレベル30突破者が出た。いずれも社内で中国語学習を始めてわずか数年の人たちである。
その効果は劇的といってよい。読めることでインターネットから自由に中国語でニュースや情報を獲得できるようになり、その結果、現地からの情報の質を厳しくチェックできるようになったのである。
某家電大手企業は平成19年4月にそのうちの1人を本社の営業本部長に抜擢したが、レベルの成果がその抜擢に何がしかの貢献をしているかもしれない。別のIT大手企業でも成果が出つつある。特に特許関係の部署では、それまで中国人任せだった資料の解読にレベル学習者が参画しつつある。また、中国との交渉においても日本人社員が文書チェックできるようになり、モチベーションが上がっているという報告があった。
ただ、企業の場合問題点もある。企業人の場合、レベルをやって3年目になると飛躍的に力が伸びる。しかしほとんどの企業が上司の許可が2年までで、そこで打ち切られてしまう。いよいよというところでそれまでの研鐙が全て水の泡になる。この点の理解をどうやって深めていくかは今後の大きな課題であろう。
一般人の通信による参加者も増えている。2007年は30名を超えた。官庁、通信社、教員、通訳者、翻訳者、編集者、企業幹部など既にプロとして活躍している人の参加が増えている。目に見える実践的な養成システムが求められている証左と言えよう。
以上