かつてハーバード大学フェアバンク中国研究センターの所長を務めた米国の著名な学者エズラ・ヴォーゲル(Ezra Vogel)はベストセラー『ジャパン・アズ・ナンバーワン―アメリカへの教訓』(1979)で、「終身雇用制」の中にいる日本の社員は、「新しい技術の導入に反対したり、技術革新のため自分が時代遅れになるのではないかと悩んだりはしない」と指摘する。社員らは、技術レベルが劣っているからといって失業を心配する必要はない。彼らはそれどころか、「会社の将来のために新しい技術の導入にも真剣に取り組む」
だが現在の状況はそれとはまったく異なる。日本企業(中国)研究院の陳言・執行院長は『環球時報』に対し、日本企業の生産現場で目にした最近の最も顕著な変化として、以前は作業員は皆企業の社員で同じ作業服を着ていたが、現在は正社員と契約社員、期間工が違う制服を着て一緒に働いていることを挙げる。「契約社員と期間工は多くの企業で30%から40%を占めており、より大変で技能の必要な作業ほど、臨時の人員に頼って行っている。技術資格を持たない人が人数合わせのために現場に派遣されることもある」。技術の熟練度を保証することさえできなければ、革新などは問題にもならない。
神戸製鋼所と業務上の往来をしたことのある日本人管理職の山田氏(仮名)は『環球時報』記者の取材に対し、過去の「終身雇用制」は、従業員の一生の安定と引き換えに、会社に対する絶対的な忠誠を獲得していたと指摘する。そうした背景の下でこそ、高度な技能を掌握した専門家を育てることができた。だが近年、日本企業が欧米型の経営理念を取り入れると、「終身雇用制」は瓦解し、日本の企業文化も、「社員と家族を大切にする」から「株主の利益を優先する」に変わった。これに加えて、「失われた20年」は業績の低迷した企業にリストラを迫り、従業員と企業との矛盾は激化した。これも一部の従業員が不正行為を働く土壤となっている。
生産現場にかかわる変化はそれだけではない。陳言氏が『環球時報』記者に語ったところによると、日本企業の多くでは以前、有名大学を卒業して修士や博士の学位を持っていても、入社後は生産現場に派遣され、作業員とともに数カ月仕事をしたものだった。その後の20年余りも基本的には平社員のまま肩書はなく、50歳近くになってから課長職に就き、それから数年してからやっと部長になるのが普通だった。日本企業の管理職には往々にして、企業の工場に対する深い理解が求められた。
「だが日本のある上場企業の部長に聞いた話では、現在の日本企業、とりわけ大企業には、官僚化という大きな問題がある。多くの管理職は、数え切れないほど会議に参加し、数え切れないほどの報告書に目を通し、企業精神を伝承するなどの内容を確認し続ける一方、生産方法の視察や改善のために直接現場に行くということはまれで、現場に対する理解も少なければ興味もない。問題が発生したら、無数のカメラの前でおじぎして謝罪するだけだ」。陳言氏によると、スローガンを叫ぶのに熱心な人ほど昇進の機会に恵まれるが、こうした人びとは「匠の精神」もなければ革新の勇気にも欠ける。革新は往々にしてリスクと隣り合わせだからだ。
原因
日本企業精神について話が及ぶと、『環球時報』記者の取材した中国と日本の企業関係者や学者はきまって、品質、信頼、進取を挙げた。『ジャパン・アズ・ナンバーワン―アメリカへの教訓』が指摘しているように、日本人はほかの人よりも理想と向上心に富んでいることが多い。外国人は日本人について、目的を達するまで休むことのない頑張り、仕事を成し遂げようとする厳粛な態度、きちんとした身なり、礼儀正しさなどの印象を持っている。