世界自然遺産選抜基準Vに基づいて、三本の川が平行して流れる地域の景観は2003年7月から『世界遺産リスト』に組み入れられている。
この景観は中国の雲南省にあり、同省の麗江市、デチン・チベット族自治州、ヌー江リースー族自治州の9カ所の自然保護区と10カ所の風景名勝区にまたがっており、総面積は3500平方キロ余りである。景観はヌー江、ランツァン(瀾滄)江、金沙江という3本の川とその流域の山脈からなり、11万3300ヘクタール以上の範囲をカバーしている。主に三本の川が平行して流れる景観、高い山・雪に覆われた山峰、峡谷・険しい早瀬、果てしなく広がる森林と大雪原、氷に浸食されてきた湖沼などがある。雲南省で面積が最大で、景観が最も多様かつ壮観で、民族の風俗が最も多彩であるが、基本的には未開発の景観区である。同時に、それはまた東アジア、南アジア、青海・チベット高原という三大地理区域の接点にあり、世界でまれに見る高山地形とそれが発展・変化する代表的な地域であり、世界で生物の種が最も豊かな地域の一つでもある。
この地域の主要な特色は金沙江、ランツァン江とヌー江という青海・チベット高原に源を発している3本の大河が北から南へと170キロ余り平行して流れ、ダンダムリカ山、ゴリゴン山、ヌー山と雲嶺を横断し、世界でもまれな「川の水が平行して流れているのに、合流することがない」ユニークな自然地理の景観を形成している。3本の川の中の金沙江は長江の上流であり、最終的には東中国海に流れ込んでいる。ランツァン江はメコン川の上流であり、最終的には南中国海に流れ込んでいる。ヌー江はサルウェン江の上流であり、最終的にはアンダマン海に流れ込んでいる。あとの2本の川は国際河川であり、特にランツァン江は6カ国(中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアとベトナム)を流れているため、「東方のダニューブ川」といわれている。そのうち、ランツァン江と金沙江との最短直線距離は66キロで、ランツァン江とヌー江との最短直線距離は19キロ以下である。地質構造条件の制約を受けて、金沙江、ランツァン江とヌー江は北から南へと三本の川が平行して流れる地域を縦断し、60-100キロの狭い地帯にあることから、世界で唯一の「3本の川が平行して流れる」奇観を成すとともに、ヌー江大峡谷、ランツァン江メイリ雪山大峡谷と金沙江虎跳峡大峡谷を形作ることになった。この地域では、南北方向の大きな川と大きな山が隔て合うように並び、西から東への順にはゴリゴン山、ヌー江、ヌー山(ビロ雪山)、ランツァン江、雲嶺、金沙江、サロリ山となっている。空から見下ろすと、3本の川が北から南へと全域を縦断し、約170キロを平行して流れ、さらに「4つの山が並列するようになり、3本の川が平行して流れる」という世界でただひとつの地理的奇観を形成している。
「3本の川が平行して流れる」奇観のほか、ここではまた雪に覆われた山の峡谷、高山の湖沼、氷河の草地、丹霞地形などの自然の景観が一体に集まった形になっている。この地域は世界で最も豊富な地質・地形博物館である。区内にある高い山の海抜の変化は垂直状を呈し、海抜760メートルのヌー江乾熱渓谷から海抜6740メートルのカワゲボ峰までの区間には高山峡谷、雪に覆われた山の氷河、高原の湿地、森林の草地、淡水湖沼などさまざまな種類の地形の景観が集まった形になっている。海抜5000メートリ以上の雪に覆われた山が118もあり、海抜6740メートルのメイリ雪山の主峰であるカワゲボ峰の頂上は万年の氷河に覆われ、山峰の頂上部から海抜2700メートルのミンユンツン森林地帯にまで伸びており、世界で最も壮観かつ希少な低緯度、低海抜のモンスーン海洋性近代氷河である。このほか、麗江の老君山地帯にはまた中国で面積が最も大きく、生育が最も完全な丹霞地形の景観が分布している。かなり著名な高山湖沼が数十カ所もあり、そのうち、ルシュ県のゴリゴン山の聴命湖、フゴン県のビロ雪山、チュシュ山の山峰の近くにあるガンデイビ湖、エンネイビ湖、ニャンボイビ湖、ゾンディエン県のビタ海、シュド湖などがある。また高山湖沼群も数カ所あり、例えば千湖山湖沼群、老君山湖沼群、紅山湖沼群、老窩山湖沼群などがそれである。調査によると、面積は50平方キロ以上であり、しかもそれぞれの特色を持つ景観区が100カ所近くもあり、さまざまな景勝地が数え切れないほどあり、北半球の砂漠、海洋景観以外のさまざまな自然の景観の縮図であると言ってもよい。
この地域は「世界の生物因子バンク」と称えられている。この地域は第四紀氷河期の大陸氷河に覆われたことがなく、それに区域内の山脈が南北方向になっていることから、ユーラシア大陸の生物の種が南北へと拡散する通り道と避難所およびユーラシア大陸で生物群が最も集中している地域となっている。この地域では北半球の南亜熱帯、中亜熱帯、北亜熱帯、暖温帯、温帯、寒温帯と寒帯などさまざまなタイプの気候環境を目にすることができ、あわせて20種以上の生態系があり、北半球の生態系類型の80%を占め、ユーラシア大陸の生物・生態環境の縮図であり、世界じゅうで単位面積内の生態系類型が最も豊富な地域と、新生代以来の生物の種と生物の群落の分化が最も顕著な地域でもある。動植物の区域系の構成は複雑多様で、10種の動物分布型、21種の分布亜型、10種の植生型、23種の植生亜型、90の群系がある。これほど狭い範囲にこのように多くの動植物の分布類型と植生類型があるのは、世界でもただ一つである。高等植物が210科、1200属、6000種類以上あり、そのうち、44の中国特有の属、2700の中国特有の種があり、そのうちの600種類は三本の川が平行して流れる地域特有の種である。なお、国家クラスの絶滅の恐れのある貴重な保護植物が33種、省クラスの絶滅の恐れのある貴重な保護植物が37種あり、世界の最も著名な植物標本パターンの産地でもある。この地域は中国の国土面積の0.04%未満しか占めていないが、中国の20%以上の高等植物と25%以上の動物の種を擁している。この地域に生息している絶滅の恐れのある希少動物には、雲南キンシザル、カモシカ、雪豹、バングラデシュ・トラ、クロクビツルなどがあり、絶滅の恐れのある希少植物にはハゲ杉、桫楞(ヘゴ)、紅豆杉などがある。
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