世界貿易機関(WTO)が進める多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の進展が鈍い中、金融危機とその余波を受け、世界の主要経済国は自由貿易圏づくりの動きを加速している。世界第3の経済大国である日本は近年、環太平洋経済連携協定(TPP)、中日韓自由貿易協定(FTA)交渉、日欧経済連携協定(EPA)など複数の貿易協定交渉に同時に参加している。日本がなぜこうした動きを見せているのか?上海対外貿易学院東アジア経済研究センターの陳子雷主任に聞いた。
――日本が同時に複数の交渉に参加する行為をどう理解したらいいか?
陳氏:日本のこうした動きの背景には深い考えがあり、日本の貿易交渉参加に関する戦略に明らかな変化があったことをあらわしている。経済的な面からいえば、交渉に参加する国はいずれも自らの優位性が持っており、産業の優位性をいかに発揮し、産業の劣勢をいかに回避するかが非常に重要になってくる。日本は以前は効率の追求が主で、国内の改革を回避し、国内の劣勢産業の利益に触れる交渉はできるだけしないようにしてきた。今日本はバランスを重視し始め、米国の基準に合わせようとしている。複数の交渉への参加を通じて日本は外の力を借りて国内の経済構造改革を促すとともに、農産品や医療など一連の産業の改革を通じてその競争力を高めることで、複数の交渉で優位性を発揮したいと考えている。また、戦略的角度からもこの問題を見なければならない。日本は米国のアジア太平洋戦略シフトの中で重要な役割を担っている。中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との貿易が緊密化する中、日本も調整の必要を感じている。米国に歩調を合わせることで、アジアでの経済的地位を向上につながり、中国の発展を抑えられる。ただそれによって日本は多くの国家利益を損なう可能性も低く、多元的で多方面の交渉に参加する戦略をとり、こちらの交渉を別の交渉を制御する道具として利用し、交渉の過程において最大限の発言権を得ようとしている。「多方面に手を出し、米国についていく」というのが日本の戦略だ。