「地震から間もなく1年が経つが、被災者は自分たちの生活を取り戻すことに必死に努めてきた。この時期、身体的或いは心理的な疲労感が出始める被災者が多く、自殺する人も現れる。私は、どのようにすれば、被災者たちが生きていこうと思えるか、どうすれば明るく前向きな気持ちを取り戻せるかを考えている」日本の青山学院大学の心理学専門家・小俣和義教授が新華社の取材に答えた。
小俣教授は心理学を専門としており、精神科医でもある。昨年3月、彼は精神医療チームを引き連れて、初めて被害の甚大だった宮城県登米市と南三陸町を訪れた。被災者の精神状態は彼が想像した以上に深刻で、多くの生存者が「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」にかかっていた。うつやショック状態、不眠を抱え、災害発生時の悲惨な光景を幾度と無く思い出し、恐怖感に襲われていた。過剰な精神不安の中からは自分の力では抜け出す事ができず、取り返しのつかない状況に陥るケースもある。
地震は被災者の生活環境と家庭環境に甚大な変化を及ぼし、中でも最も重大なダメージを受けたのは子供たちだった。地震で家族全員を亡くし、他人の家に身を寄せるしかない子どもも少なくなく、新しい環境になじめずに、安心して毎日を過ごせず苦しんでいた。小俣教授によると、震災後に怒りっぽくなったり、気性が激しくなる子どもも多く、普通に遊んでいる時でも急に慌て始めたり、悪夢にうなされて叫び声を上げたりと症状は様々だという。地震や津波のような恐ろしい災害は大人でも受け入れがたいのに、子どもはなおさらだ。一刻も早く状況を改善しなければ、子どもの一生がダメになってしまう。
小俣教授は、チームのメンバーと共に、被災地に人々が集まってお喋りできる喫茶店を開設し、被災者の心のより所となった。突然の災難に見舞われ、人々は話を聞いてもらうことやコミュニケーションを取ることに飢えていた。しかし、震災で人々のコミュニティが失われてしまい、誰にも話せずに我慢していると、精神的に参ってしまうことが多い。喫茶店は被災者が交流できる場となり、ストレスを発散することにつながった。「二回目に被災地を訪れた際、被災者と話をしたが、彼らは明らかに以前よりも自分の心のうちを話してくれるようになっていた。それこそが改善の兆候である」と小俣教授は話す。
「1年かけて、災害の痛みは少しずつ和らぎ、被災者の生活もゆっくりと元の状態に戻ろうとしている。しかし、震災前のレベルにはまだ届かず、この時期に生きる意味を見失ってしまうと、将来への心配や不安が助長されて、被災者の精神的ダメージが一気に爆発する可能性がある。ボランティアスタッフが喫茶店などの運営を少しずつ、現地の被災者に任せる段階に来ている。被災者が運営し、人のために働くことで自分の存在意義を確認する必要がある。生活への自信を取り戻し、積極的なムードを周囲に伝えることで、被災地での好循環が生まれる」と小俣教授は言う。
小俣氏は、時間を作って4月にもう一度被災地を訪れる予定だ。「被災者のみんなに我々は彼らのことを忘れてはいないと伝えたい」と小俣教授は意気込む。
「人と人とはつながっている。孤独な人などいないのだ。私たちは相手の気持ちを思いやり、お互いに支えあい、助け合い生きていく。友人と語り合い、親交を結ぶ事ができることは人生の大切な宝である」と小俣教授は前回の被災地訪問後に自身のノートに書き記していた。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2012年3月9日