米ニューヨークタイムズ紙9日付1面に掲載された記事によると、福島第一原発事故の直後、緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI)データを日本政府が公表していなかったことが明らかになった。掲載記事には、「速やかなデータ公表を怠ったことにより、原発周辺の住民らが高い被ばく線量の環境下で3日間さらされることになった」と当時の体験者らの言葉が引用されている。
◇自主避難の住民が被ばく者に
福島第一原発から北西約8キロメートル離れたところにある福島県浪江町では、避難を指示する国からの連絡がなかった。放射能漏れのニュースを知った町民らは、馬場町長の指揮の下、次々に自主避難していった。
この季節は南向きに風が吹くことが多いため、北に逃げることで放射能汚染から逃れられると馬場町長は判断した。そこで浪江町でも北に位置する津島地区に住民を避難させた。
だが、その日はちょうど北向きに風が吹いていたため、放射性物質は風下である津島地区にも及んでいた。
馬場町長は「頭の中は放射能汚染への懸念でいっぱいでした。ところが実際には、3月12日から15日まで、私たちは放射線レベルが最高だった場所にいたのです」と国に対する怒りを露わにし、「放射能汚染に関する情報の公表を怠ったのは、国が我々を見殺しにしたのと同じです」と述べている。
◇情報の公表に「待った」をかけたのは?
原子力の専門家である民主党の空本誠喜議員は、福島原発事故発生後、アドバイザーとして菅直人首相に処理・対応案の提言を行なっている。
ニューヨークタイムズ紙の取材を受けた空本議員は、国が緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI)データの速やかな公表を怠ったことに非難の声を上げている。
空本議員は「結局、SPEEDIデータ公表を控えたのは他ならぬ首相官邸でした。彼らはそのデータの意味を理解する知識を持っておらず、住民に説明しようがなかったのです」と述べている。
また「彼らは自分たちの保身のことだけを考え、それを発表しない方が安全だと判断したのです」と述べている。
◇不確定なデータ「公表の意味がなかった」