文=コラムニスト・陳言
中国日立の常務副総経理の野本正明さんは中国各地を訪れる度に日立製品の評判を耳にする。20年前の日立のテレビが今でも使える。買って本当に良かった、という内容だ。
そんな評判を耳にして嬉しい反面複雑な心境になるという。“日立”ブランドの評判が良いことはとても嬉しいが、もはや日立はそのテレビを製造してはおらず(中国人の多くがそのことを知らないでいるだろうが)、現在の日立のデジタルメディアや家電製品全体を合わせた売上高総額9兆円の1割も占めていないからだ。
野本さんは日立のスマートシティ概念について語り始めた。日立の持つ総合的な力を中国のマーケットで最大限に生かしていきたいという。
日本の他社メーカーに比べると、日立の国際化の比率は43%と低い。
「しかしながら、わが社の中国での売上はヨーロッパとアメリカを超えており、海外売上高の第一位を占めています」
野本さんは言った。
1980年代から90年代にかけて日本企業の“グローバル化”はつまり“アメリカ化”だったと言える。企業は先を争うようにアメリカで投資し、かの地に基盤を築いてさえいれば他は大丈夫、といった考えだったろう。しかし日立の方向転換は他社よりも迅速だった。2010年の売上比率を見れば中国が13%、ヨーロッパとアメリカがそれぞれ8%と中国での成長が著しいことがよくわかる。その中国での成長があったからこそ、2008年のリーマンショックの際にも経営をいち早く立て直すことが可能だったのだ。
野本さんが今中国で打ち出しているのは全く新しいコンセプトだ。
「私たちが今掲げているのは社会イノベーション事業です」